[講座リポート]美術作品でたどる『美神ヴィーナスの変遷』~美と愛と豊穣の歴史~

ヴィーナス_会場.jpg 2022年2月12日(土)、読売新聞東京本社3階「新聞教室」で、公開講座「美術作品でたどる『美神ヴィーナスの変遷』」を開催しました。


 「縄文のヴィーナス」「ミロのヴィーナス」「ヴィーナスの誕生」......、姿、形を変えながらも私たちのそばにいたヴィーナス。当時の人々は、ヴィーナスにどのような思いを込めていたのでしょうか。ヴィーナスの変遷を、美術評論家でNPO美術教育支援協会理事長の谷岡清さんがお話ししてくださいました。



ヴィーナス_谷岡さん.jpg 現在、確認されている最古のヴィーナスは、ドイツのホーレ・フェルス洞窟で発見されたヴィーナスです。3万5000年前のものと言われています。世界最古のヴィーナスや縄文のヴィーナスは、ふくよかな女性の体を誇張して表現しているものが多くあります。谷岡さんは、子孫を増やし、子どもを無事に育てようという思いを感じると話します。当時は、食料が安定的に豊富にあるような時代ではありません。子どもを育てるには、子どもに栄養(母乳)を与えられるように「自分にため込むしかなかった。子どもを産み、育てることは当時はとても神秘的なことだったはず」と、谷岡さんはヴィーナスから読み解きます。

 やがて、人々が農耕を始めると、祈る対象が木に実を成らせる大地から、日を照らし、雨を降らせる天に変化していきます。

 トルコのエフェソスは、エーゲ海沿岸に位置し、ギリシャやエジプトなどから様々な影響が流れて来ました。紀元前550年頃、そこで信仰を集めていたのは、ギリシャの豊穣の女神、アルテミス神でした。丘には立派なアルテミス神殿が建てられていたといいます。そこで祭られていた女神は豊穣の象徴であるブドウの首飾りを付けていました。

 そして、いよいよギリシャ神話の愛と豊穣の女神アフロディテ(ローマではヴェヌス、英語読みでヴィーナス)が登場します。

 古代ギリシャの代表的な彫刻「ミロのヴィーナス」のように、ヴィーナス像は美しい女性の裸体像が思い浮かびます。しかし、当時、ヴィーナス像が作られた当初は、衣装を身に着けたヴィーナス像が作られていたといいます。ところがある時から、衣装を脱がされたヴィーナス像が作られるようになりました。その事件を谷岡さんが説明してくださいました。

 またヴィーナス像は、黄金比を踏襲し、重心を浮かせ、体を少ししならせるような表現がされています。ギリシャ彫刻の人体の美しさを表す規範をしっかり残しており、そのことから裸体像でありながらも、神々しさが残る彫刻となっていると美術的観点からも解説してくださいました。

 そして、これが元になって、ルネサンスの至宝、ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」につながっていきます。


 90分でおよそ3万年のヴィーナスの変遷を追いました。多くのヴィーナスが登場し、「あなたはどのヴィーナスが好きですか?」と問いかけて、講座は終わりました。まさに愛と美にあふれる講座でした。



谷岡清さんの講座
■よみうりカルチャ―恵比寿(アトレ恵比寿7階)
世界の巨匠たち