伊勢型紙 ―精緻な芸術品―
オリジナルを彫る
乱れなく彫り抜かれたモチーフ。目を凝らさなければ見えないほど小さな穴が無数に連続する模様。着物の布地を染める時に使われる伊勢型紙だ。
手染めに使われる型紙はほぼ伊勢型紙で、そのほとんどが三重県鈴鹿市の白子(しろこ)地区で作られる。京都に送られれば型友禅(かたゆうぜん)、江戸では江戸小紋が染められる。
精緻な彫りは、染めの道具の一つでありながら、それ自体がアート作品のよう。田部久美子さんも、そんな伊勢型紙の美しさに引かれた一人だ。
「細かく正確な彫りには職人の技が凝縮されています。細かさばかりでなく、動植物や季節のモチーフの表現、柄の組み合わせや配置など、デザイン性も魅力です」
講座では2年に1回、オリジナルデザインの作成から、型紙彫り、そして浴衣生地の染めまで、一連の工程を体験する。今年は13人が挑戦した。
グッと入れてスッと引く
まず、図案集やお気に入りの絵をもとに自由にデザイン。伊勢に一人しかいない図案師に来てもらいアドバイスを受ける。図案ができたら、美濃和紙を柿渋で張り合わせた型地紙(かたじがみ)に写し、彫刻刀で彫っていく。根気と集中力が求められる作業だが、「黙々と彫っていくのが好き」と皆さん楽しそう。
上手に彫るポイントは彫刻刀の持ち方。鉛筆のように持つと曲線がきれいに出ない。「刃先を自在に動かせるように、親指と人差し指で挟(はさ)むように持つのがコツです。私も師匠に『違う!』と何度も直されました」と田部さん。
「紙に刃先をグッと入れて、スッと引くように切る」。師匠の手元を見て学んだ技術を伝授する。単純なモチーフなら1日で、細かい小紋になると完成まで1か月以上かかるという。
藍染めも体験
彫り上がった型紙は、伊勢に送って補強の紗張(しゃば)り※をしてもらい、染めの作業へ。修行時代、「型紙だけでは生きていけない。染めもしなさい」という師匠のアドバイスで、田部さんは藍染めを始めた。今では地元福島の休耕田を借りて藍を育てる。今年は生徒さんも収穫を手伝った。「蚊の大群に襲われたり、泥だらけになったり(笑)、楽しかったですよ」と皆さん。
「デザインする、彫る、染める。それぞれの楽しさを体験してほしいです」田部さん。
「彫るだけでなく、どんどん楽しみが広がっていきます」「日本の工芸は奥が深い」と皆さんも応える。彫刻刀を持つ手先に熱が入る。
※紗張り=補強のために型紙の全面に絹の網を漆で貼る。紗張り職人は、鈴鹿市に一人しかいない。
※「よみカル」2017冬掲載 「伊勢型紙」田部久美子講師
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