[インタビュー]すべての人に星空を―星つむぎの村代表理事の高橋真理子さん

ポーズ3_500-690-2.jpg 「宙先(そらさき)案内人の高橋真理子です。これから皆で宇宙旅行に行きましょう」

 黒いカーテンなどで遮光された、真っ暗な多目的ルーム。プロジェクターから映し出された夜空が天井に広がる。障害や病気などでプラネタリウムに行ったことのない子供たちのために、星空を届ける「病院がプラネタリム」の上映会が始まった。参加者は、車いすや床に敷かれたマットの上に寝そべって、天井を見上げている。

 太陽が沈み、徐々に暗くなり、満天の星が浮かび上がる。

 「『〇〇君』・・のひいおじいちゃんの1000回前の祖先も皆、この宇宙を見て、いろいろ考えてきました。星と星を結んだら想像力が広がってきて、きりんやら、リスのようなクマやら、ムキムキとしたヘラクレスという男の人やら・・・88の星座が生まれました」

 参加者は、きれいな映像と高橋さんの語りに吸い込まれていく。

 当日の夜空が映し出され、七夕で有名な彦星(アルタイル)、織姫星(ベガ)、デネブの明るい三つの一等星を結んだ「夏の大三角」が現れる。どれが彦星か問いかけていく。参加者も拍手で応えるなど"対話"が進む。彦星と織姫星の間に銀河の「天の川」が流れる。年1回七夕の日に、彦星と織姫星が天の川を渡って逢瀬を楽しむという伝説に参加者も思いをはせる。

pura P3_300-225.jpg 誕生日の星座では、「〇〇さん」の誕生日は△△座ですね、と声をかけると本人、家族らもうれしそうに反応する。

 宇宙旅行は、地球を離れ、太陽系のかなたに向かう。赤茶けた鉄の大地が広がる、火星が近づく。天井一杯に広がった火星に押しつぶされそうになると、高橋さん「皆さんの力で、火星を遠ざけよう。1、2の3」

 参加者も手で、押し上げるしぐさをする。火星は徐々に遠ざかっていった。木星、土星などほかの惑星も間近にながめることができた。人や生き物を構成する元素はすべて超新星爆発などによって宇宙で作られたもの。命の根源は、宇宙にあることを感じさせる物語だ。

 宇宙旅行を終え、地球に帰還する。そして高橋さんは「誰の上にも星はある。1人1人が星のように輝く存在。広い宇宙があることを心にとめていただけるとうれしい。宇宙と自分がつながっていることを感じてほしい」とメッセージを送ると、空が明るくなった。

 高橋さんは、オーロラの研究をしたくて大学院まで進んだ。しかし、研究者には向かないと思ったという。科学と社会をつなぐ仕事をしたいと、1997年から山梨県立科学館に就職。天文担当として、斬新なプラネタリウム企画や番組を制作して注目された。生命の根源である宇宙を語り、命を考える中で、2000年代初めからプラネタリウムを病院や施設の人達に見せたいと思い始めたという。

 その思いは詩人、ホスピス医などとの出会い、共同事業の中で膨れ上がっていった。2013年に独立し宇宙と音楽を融合させた公演や出張プラネタリウムを実践する活動を始めた。2014年から「病院がプラネタリウム」が始動、2016年、山梨県立科学館時代の上司で元小学校教員の跡部浩一さんと二人の共同代表体制で、一般社団法人「星つむぎ村」が発足した。星つむぎ村は、八ヶ岳山麓の山梨県北杜市に本部を構える。

 以降、全国各地から依頼され、上映会を開催している。体育館など広いスペースのあるところでは、直径7メートルの、狭いところでは4メートルのドーム型のテントの中で、プラネタリウムを上映している。

 「ドームは臨場感たっぷりあるが、設置できないところでは、天井を活用して映し出す。ふだん、寝転んで上ばかり見ている子どもたちにとっては、天井いっぱいが星空や宇宙になることには、また意味がある。病院や支援学校などでの上映が中心だが、学校や地域、ホールなど一般からの要望にも対応している」と語る。

 この2年は、新型コロナウイルスの蔓延で、病院への出張プラネタリウムの開催はできなかった。その分、機材を貸し出した「フライング」プラネタリウム」がほとんどだったという。昨年1年間の「病院がプラネタリウム」は118件。その他の約50件を加えると、200件近い上映が行われている。

 今年はコロナが落ち着き、出張プラネタリウムが増えている。こうした全国各地の上映会を支えているのが、全国にちらばる200人の支援協力員の存在だ。若手も増え、コンテンツも新しいものができているという。

 「最初は、重い障害や病気のある人たちと、どのようなコミュニケーションをとるのがよいのか、戸惑うこともあったが、見てくれた人たちからプラネタリウムの意義を学ぶ10年だった。同じ星空の下で、ともに生きる社会の実現を目指したい」と強調する。

星の家300-177.png 出張プラネタリウムを経て、今高橋さんらが実現しようとしているのは、本物の星空を見せる取り組みだ。現在、障害や病気があっても安心して宿泊し、星空を観察できるようにするため、八ヶ岳のふもとの「星つむぐ村」の敷地の隣に宿泊施設「星つむぐ家」を建設中だ。11月以降のオープンを目指している。

 「重い障害や病気がある人たちにとって外出すること、そのものが大変なこと。少しでも手助けできるような施設にしたい。大自然の中で、星を身近に感じてほしい。ぜひとも来てほしい」と話す。

 プラネタリウムが人々の心を動かし、誰もが宇宙と一体感を味わうことができる。そして命を考え、いのちを大切にするきっかけになることを高橋さんらの取り組みを通じて痛感した。

(2023年9月10日横浜市青葉区鴨志田ケアプラザにて)

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