[講座リポート]倉嶋紀和子と酒蔵めぐり―小澤酒造―(荻窪・川崎・自由が丘センター)

2023年9月20日(水)、公開講座「倉嶋紀和子と酒蔵めぐり―小澤酒造―」を開催しました。(荻窪・川崎・自由が丘センターで募集して実施)
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沢の井01_400-711.jpg 9月20日、「倉嶋紀和子と酒蔵めぐり」の参加者約40名で東京青梅市にある小澤酒造を訪ねました。最寄りのJR青梅線「沢井駅」は1時間に1、2本しか電車が止まりません。車内はほぼ我々の貸切状態です。駅から徒歩5分ほど歩くと小澤酒造があります。

 創業は元禄15年(1702年)。歴史ある酒蔵です。蔵の入り口には大きな杉玉が掲げられています。案内してくれたのは小澤酒造23代目社長の小澤幹夫さん。講師の倉嶋さんとは何度も仕事をしている親しい仲です。まずは蔵の前で記念撮影をして、さっそく小澤社長が蔵の中へ案内してくれます。

 一番初めに足を踏み入れたのは「元禄蔵」。元禄時代の創業時から現役で使われている蔵で、一部リノベーションされていますが、梁や柱は昔のままで歴史を感じます。酒が入った大きなタンクがいくつも並んでいます。印字されている数字「8109」はリットル数。8,109リットル...。想像も付きませんが「毎日2合を60年間飲める量」だそうで。「お酒は20歳からですので80歳まで毎日2合飲めます。休肝日も考えるとこのタンクで約一生分ですね」と小澤さん。

 そこから増築された「平成蔵」に繋がります。ここでは酒を濾(こ)す作業をしています。米が原料の酒は、発酵後に液体と酒粕に分けられます。全製造量の約3割が酒粕だそうで「結構な量ですよね、昔は酒粕はもっと日常的に利用されていたんですが、今はあまり使われません。ぜひお料理等に酒粕をもっと使ってほしいです」(小澤さん)。

 ここの酒造りに主に使われる酒米は山田錦という品種。「食べる米と違ってぱさぱさしています。食べておいしいお米と酒造りに適しているお米は別なんです」と小澤さんは言います。小澤酒造では自社で精米もしており、精米後に出る米ぬかも再利用しています。赤ぬか(玄米のぬか)は飼料などになりますが、白ぬか(精米歩合を磨くため削ったぬか)は言ってしまえば米粉です。こちらはおかきの材料などに使われるそうです。「お酒のおつまみに柿ピーなどのおかきが合うのは原材料が同じだからなんですね」と小澤さん。

 続く「明治蔵」では麹(こうじ)を作る作業をしています。こちらも古いつくりの蔵です。階段を往復して炊き上げた酒米を2階へ運び麹を作ります。ちょうどNHK朝ドラ「らんまん」の主人公の実家が作り酒屋です。こういった蔵の中のシーンをドラマで見たこともあるのでは?

 「ドラマでも蔵には女性が入ってはいけないという描写がありましたが、ここも少し前、私の祖母や母などは蔵に入らないようにしていました。悪い意味で日本的なところだと思います。今はそんな蔵も少なくなりましたし、女性で活躍している杜氏さんもいます」

 蔵の出口の方へ向かうと、瓶(びん)や甕(かめ)がずらっと並んでいる棚があります。こちらは古酒を保管している場所。日本酒で古酒とはあまり聞きませんがファンも多いとか。いま保管されているもので一番古いのは2000年に仕込んだ壺禄(ころく)という吟醸酒。23年ものです。「今日は最後にお酒の試飲もありますので、そこで古酒も飲み比べていただきます。カラメルのような甘香ばしい風味を感じると思います」。小澤さんの言葉に気分が高まります。

沢の井05_400-281.jpg 蔵の外に出るとすぐ横は岩壁です。ここには小澤酒造の酒造りに使われる横井戸があります。小澤酒造は井戸を2つ持っており、ひとつはこの岩から染み出す石清水のために堀った横井戸。ミネラル分を含む硬水です。もうひとつはまろやかな味わいの軟水。硬水と軟水ふたつの水を使い分けてお酒を造ります。新しい酒を作る時には、出来上がりをイメージして水から選べるのが強みだと小澤社長は言います。

 横井戸とはあまり馴染みがありませんが洞窟のように人が立って歩けるような井戸です。奥に入ると驚くほど透明度の高い美しい水が。その神秘的な美しさに感動しました。井戸の奥の方は真夏の8月でもつららができるくらい気温が低いと聞き、受講者からは「ええーっ」という驚きの声。この日は蒸し暑かったのでこの奥がそんなに涼しいとは想像もつきません。酒造りに欠かせない大切な井戸を見せていただきました。
さて、蔵見学はここまで。いよいよお楽しみの酒の飲み比べです。

 沢の井03_400-225.jpg小澤酒造にはお食事処や売店、バーベキュー施設が並ぶ「澤乃井園」が併設されています。本日は多摩川のせせらぎが目前の食事処「ままごとや」でお料理とお酒をご用意いただきました。ご用意いただいたお酒は7種

・純米大吟醸「澤乃井」
・大吟醸「澤乃井」
・純米吟醸「蒼天」
・純米吟醸 生酛造り「東京蔵人」
・純米ひやおろし「澤乃井」
・純米生酒「澤乃井」
・純米吟醸生酛「蔵守2017」(古酒)

 小澤酒造の代表銘酒「澤乃井」を中心に純米大吟醸と大吟醸など、味の違いが楽しめるものをご用意いただきました。それぞれ小澤社長の解説を聞きながら味を確かめていきます。やっとお酒が飲めるということで、受講者の皆さんもそして倉嶋さんもニコニコ。先ほど見学した蔵のお酒と思うと味わいもひとしおです。

 会場の「ままごとや」は築100年を超える趣のある日本家屋で元は旅館。この辺りにはこういった立派な建物がたくさんあったそうです。なぜでしょう。小澤社長が説明してくれました。
 「この辺りは、今では想像も付きませんが、林業や織物業が盛んでとても都会的で裕福な土地でした。"がちゃまん"という言葉がありますが機織り機を一回がちゃんとすれば1万円になるというほど経済力があったのです。また林業も盛んで、多摩川にいかだを浮かべ木材を江戸まで運び賃金を貰います。お上りさんですからそのまま江戸でさんざん豪遊しますが、その残りのお金でも家族から大いに感謝されるほどの手取りがあったそうです」(小澤社長)
...うらやましい話ですね。

沢の井04_400-281.jpg 参加者の興味はお酒から次第に小澤社長ご本人へ...。プライベートを暴こうとする質問が飛び交う中、驚くことが判明しました。小澤家は元は武田家の家臣・穴山梅雪の末裔だということ。武田を裏切った穴山梅雪の血族は山梨から多摩へ逃れ「小澤」と姓を変えこの地で暮らすようになりました。「武田軍そして穴山家は鉱山開発をしていましたので、固い岩の横井戸を掘る技術も持っていたのかもしれません」(小澤社長)。酒造りに欠かせない井戸の秘密がここにあったのですね。

 さてクイズです。武将の末裔ということもあり、小澤家では男子がやってはいけないしきたりがあります。いったい何でしょうか?

 答えは...「こいのぼりをあげてはいけない」。

 戦乱の時代には何かあれば男児は殺されてしまいます。こいのぼりはその家に男児がいることを知らしめることになるのです。もちろん現在ではそんな危険はありませんが当時からのしきたりとして続いているそうです。

 

 その他にもここに書ききれないほどのお話をたっぷりとお聞きして終了のお時間です。
 倉嶋さんのもとに集った参加者の皆さん「好く呑み、好く笑い、好く酔う」のモットーの通り、楽しんでいただけたようです。飲み足りないつわものは澤乃井園の売店でお酒を追加。楽しい一日となりました。(写真=(左)倉嶋紀和子さん、(右)小澤幹夫さん)

(2023年9月20日)

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