[講座リポート]国立劇場のあゆみ

国立劇場のあゆみ_会場01.jpg 本館建設時キャプション国立劇場提供408-318.jpg

 2022年10月8日(土)読売新聞東京本社3階「新聞教室」で、講師に明治大学名誉教授で元国立劇場制作室勤務の神山彰さんを迎え、公開講座「国立劇場のあゆみ」を開催しました。

 東京・半蔵門にある国立劇場は、2023年10月に建て替えられることになっています。神山さんは、「東京から単独の劇場がなくなりますね」と少し寂しそうに話し始めました。

 現在の国立劇場は、1966年(昭和41年)に開場しました。そもそも国立劇場構想は、明治に遡るといいます。当時は、鉄道の駅と劇場がセットになった計画があったそうです。「江戸の頃はどこに芝居小屋があったか、川のそばにあった。皆、舟で芝居を見に行ったんです」と、神山さん。明治になると移動手段に鉄道が入ってきました。また、江戸の頃はいつ芝居が始まるか案内はなかったと言いますが、時間に正確な鉄道の登場が開演時間を決めて案内を始めるきっかけになったと言われています。当時の劇場設計案は洋風建築だったといいますが実現はしませんでした。

国立劇場のあゆみ_会場02.jpg 関東大震災、日中戦争、太平洋戦争の後、1956年(昭和31年)に国立劇場設置準備委員会が設置されます。しかし、計画は遅々として進みませんでした。1960年、ローマでオリンピックが開催されると、次(1964年)は東京オリンピックが決まっており「国立劇場を!」と機運が高まりますが、道路整備が優先されます。国立劇場の建設が三宅坂のパレスハイツ跡に決まったのは1963年(昭和38年)でした。

 現在の国立劇場は、「校倉(あぜくら)造りの建物で階段なしで入れる、今でいうバリアフリー。ロビーも広くて、扉も二重で、僕は好きでしたね」と神山さん。

 神山さんは、1978年(昭和53年)に国立劇場で勤務を始めました。「役者、裏方のトップは明治または大正1桁生まれ。記憶力、勘の良さはすごかった。この方たちと一緒に仕事ができたのは幸運だった」と神山さんは言います。芝居出演の話を役者に持って行った時は、思い出話が始まり、雑談しながら「じゃ、やるよ」と成立した話など、懐かしそうに当時のエピソードを語りました。

 昭和の終わりから平成はテクノロジーの発展により、劇場にチケットを買いに行くこともなくなり、稽古にビデオが使われるようになったことなど、時代の変化とともに歩いた56年の国立劇場のあゆみを振り返りました。ユーモアを交えて話す神山さんの話に、当時を知る人も、知らない人も、時に笑い声をあげながら、興味深く聞いていました。

 神山さんは、「劇場は思い出が集積する場所」と話しました。最近は劇場に行ったことがない人が増えてきたと言います。現在、国立劇場では、「初代国立劇場さよなら公演」を行っています。また、当社では2023年2月3日に「国立劇場まるごと見学ツアー」を開催します。ぜひ劇場へお出かけください。そして新しい国立劇場を楽しみにお待ちください。