[WEB連載コラム]第18回 ブルー・アイランド氏がやりたかったこと(文と絵 青島広志)

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 劇場での演(だ)し物をひと口に「公演」と呼ぶが、舞台に出演する人間たち以外の、客の目に触れない役柄を「裏方(うらかた)」と呼ぶ。演出・舞台監督・照明・音響・美術(大道具・小道具)・衣装・化粧(メイク)などの役割があり、それぞれに助手が付く。彼らは一般に外部からその小舎(こや)を借りている期間だけやって来るが、劇場付きの人間もいる。珍しいところでは小裂(こぎれ)というのもあって、古くは歌舞伎から出たものであろうが、いわゆる劇場付きの舞台監督で、消え物(舞台用の食品)や生物(犬・鳥・植物など)を調達する。現地の情報に詳しくなくては務まらない。わが父は新橋演舞場の小裂を40年近く務めたが、残念ながらB(ブルー・アイランド=青島)はその仕事に就くにはあまりに無精者で、代わりにわが相続人がそれに近い立場にあるのは、隔世遺伝だろうか。

 むしろ「表方(おもてかた)」ならやってみたいと思っている。これは劇場の接客係に近い役柄で、まず入場券の半分を切る。さらに席まで案内する場合がある。またプログラムを渡したり売ったりする。ホールによっては客席内の扉近くに座る係も居る。もちろん、非常時に対応するためである。彼らもまた劇場に勤めている場合と、外部からやって来る場合とがあって、かつては券のもぎりだけはそれを請け負う会社があった。女性ばかりで、なかには百戦錬磨の年配者が一人居て采配を振るっている。舞台芸術を裏から支える「裏方」たちを顕彰する賞、「ニッセイ・バックステージ賞」を受賞したことで一躍有名になった。


 Bは、全て構成員が手弁当で運営していた東京室内歌劇場の音楽スタッフとして、18歳で参加したが、当日役割のない人間は足りない係に回される。それがまず受付だったのだ。経済的余裕がないから他から頼めない。現金を扱うのはたった一人しか居ない事務局員が受け持つ。つまり券を切るのだが、「いらっしゃいませ」と笑顔で話しかける、決して惰性と感じられてはいけない。障害を持った客が来たら席まで誘導する。著名な人物だと気付いたら事務局員に知らせるなど、言われなくても何とか務められた。わが母は父と職場結婚し、劇場の売店に勤めていた時期がある。Bがやや音楽界で知られるようになってから、人と会うのが好きだったのだろう、受付の仕事を買って出たことがあった。あわよくばそれを収入に繋げようと思ったらしいが、大変に気まぐれで、当日になってから「行きませんから」と先方に電話したりするので困ったことになった。無報酬でも約束を違(たが)えてはならないことを、年月とともに忘れてしまうらしい。

青島さん 写真提供:Gakken Pub199-248.jpg■プロフィル

 東京藝術大学講師。オペラや合唱など作曲した作品は200曲を超える。ピアニスト、指揮者としての活動も47年を迎え、コンサートやイベントもプロデュース。「題名のない音楽会」「世界一受けたい授業」などに出演している。


★お知らせ

 荻窪センターでは毎月1回、「音楽作品のバラエティ 作曲の師弟関係をさぐる」を開講。1月期は作曲家の師弟関係について取り上げる予定です。皆さんにも、可能な限り加わっていただきます。小野勉による模範演奏をお楽しみに! 音楽講座が多いと言え、これほどの名演を間近で聞けるのは、この講座しかありません



バックナンバー

(情報誌「よみカル」2017秋号~2019冬号に掲載。2020年春からWEB掲載)

第1回「ガムラン奏者」

第2回「少女漫画のアシスタント」

第3回「香港の中華料理店の下働き」

第4回「オペラのコレペティートル」

第5回「プランクトン研究者」

第6回「お花を活ける人」

第7回「写譜屋」

第8回「古本屋の店主」

第9回「プールの監視員」

第10回「女性文化の担い手」

第11回「服飾デザイナー」

第12回「占い師」

第13回「司会者」

第14回「譜めくり」

第15回「美術評論家」

第16回「ギリシャ神話解説者」

第17回「柴犬の世話」