[WEB連載コラム]第16回 ブルー・アイランド氏がやりたかったこと(文と絵 青島広志)

ブルーアイランド_16回ギリシャ_900-200.jpg

ギリシャ神話解説者1000-697.jpg

 

 幼い頃から本が大好きだった。月に1回病院に通わなければならず、かなり痛い処置をされたから、帰り道ではご褒美(ほうび)として本を1冊買ってもらった。だから小学校に上がるまでには、身の回りに30冊ほどの絵本があった。そして小学1年生の春休み、手術を受けて1か月ほど入院した時、近所の林家からお見舞いに、世界神話の本が届いた。児童文学全集の一冊で、山室静の著だった。後にこの方の紹介した「ギルガメシュ叙事詩」に作曲することになり、晩年を迎えていた本人と電話越しに話したことがあるが、その頃にそんな予兆はない。しかし他にすることもなかったので、貪(むさぼ)るように読み耽(ふけ)り、いくつかのお気に入りが生まれた。その一つは中国神話の空にいくつもの太陽が出る話で、初めて描いた少女漫画となり、その一場面は卒業制作のモザイクとして、壁面を飾った。残りは全てギリシャ神話で、アポロンとヒュアキントスの悲恋物語や、デメテルが娘を探して世界を放浪する話、オルフォイスが冥界へ妻を取り戻しに行く話、セレネが眠ったままの美少年を愛する話だった。そこには老若男女問わず全ての愛憎の形態があった。少しだけピアノが弾けたので、即興演奏してみたり、絵に描いたりしたのである。これらは現在に至るまで、(B=ブルー・アイランド=青島)の創作活動の源泉になっている。



 そうした曲や絵の解説を頼まれて描くうちに、ギリシャ神話に関する知識は増大した。もとより言語及び外国語の学術書を読む能力はないから、邦訳本を買い漁(あさ)るうちに、様々なヴァリアントが存在することが解ってきた。また婚姻関係が複雑で、特に系譜は入り乱れており、正確に説明するのが難しい。恐らく学者でもその全貌を空(そら)で言える人は居ないのではないだろうか。そのことに気付いた時から、Bは馬謖(ばしょく)を切って他人に伝えることが怖くなったのである。



 ヨーロッパを旅行してみると、なんとギリシャ神話を素材とした造形が多いのかと驚かされる。女性の裸体であれば、まず間違いなくヴィーナスで、孔雀を従えていればヘラである。噴水の中央に寝そべっているのはポセイドン、法螺貝(ほらがい)を吹いているのはトリトンだ。教会にもその意匠は入り込み、口から植物を生やしているのはパンだろう。キリストでさえ、ゼウスの先例がなければ、現在に伝わらなかったと思われる。いずれ講座を飛び出して、彼(か)の地でギリシャ神話に基づく美術品を紹介してみたい。その日まで元気で過ごそう!



青島さん 写真提供:Gakken Pub199-248.jpg■プロフィル

 東京藝術大学講師。オペラや合唱など作曲した作品は200曲を超える。ピアニスト、指揮者としての活動も47年を迎え、コンサートやイベントもプロデュース。「題名のない音楽会」「世界一受けたい授業」などに出演している。


★お知らせ

 荻窪センターでは毎月1回、「オペラ実演の醍醐味(ロマン~近代編)」を開講中。今期は普通とはちょっと違ったオペラを取り上げます。声楽的な見方だけでなく、広い視野からその作品を俯瞰します。講師が招く特別ゲストもお楽しみに。オペラ講座は多いとは言え、これほどの名歌手を間近で聴けるのは、この講座しかありません。

 

5/20は、ドイツの春をうたった作品を取り上げます。「こうもり」よりチャルダッシュ(ヨハン・シュトラウスⅡ)、春への憧れ(モーツァルト)、飛騨高原の早春(小林秀雄)など。

コロナよ、終息せよ
6/17は、コロナウイルス退散のためのアリアを集めます。「トロヴァトーレ」よりあの恐ろしいたき火を見よ、燃えさかる炎(ヴェルディ)
「連隊の娘」より友よ何と楽しい日(ドニゼッティ)
踊り(ロッシーニ)浜辺の歌(成田為三)など。


次回の掲載は8月20日予定

バックナンバー

(情報誌「よみカル」2017秋号~2019冬号に掲載。2020年春からWEB掲載)

第1回「ガムラン奏者」

第2回「少女漫画のアシスタント」

第3回「香港の中華料理店の下働き」

第4回「オペラのコレペティートル」

第5回「プランクトン研究者」

第6回「お花を活ける人」

第7回「写譜屋」

第8回「古本屋の店主」

第9回「プールの監視員」

第10回「女性文化の担い手」

第11回「服飾デザイナー」

第12回「占い師」

第13回「司会者」

第14回「譜めくり」

第15回「美術評論家」