[WEB連載コラム]第14回 ブルー・アイランド氏がやりたかったこと(文と絵 青島広志)

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 譜めくりと呼ばれる人員が必要なのは、専(もっぱ)らピアノのみで、それも独奏の場合は暗譜するのが世の習いだから、伴奏や合奏の時である。ただしそうした編成の場合、音は多少減り、休符も多くなるもので、出版されている楽譜は、予(あらかじ)め本人がめくることを想定して割り付けをするものだ。ただし「魔王」(シューベルト作曲)のように、何ページもずっと休みなしに弾き続ける伴奏もあり、どうしても譜めくりを頼むことになる。


 誰にでもできそうな役目だが、どうして、難しい技術が必要なのである。まず、楽譜を読めなければならない。そして咄嗟(とっさ)の事故にも対応できる機転を持ち合わせていなければ、とても務まらない。伴奏は独奏(唱)者に合わせるもので、独奏者は先に書いたように暗譜だから、時として間違えてワープしてしまうことがある。それを瞬時に汲み取らねば役に立たないのだ。先に飛んでしまうだけでなく、戻ってしまうミスもあるものだ。

 次いで、めくる速さ、時期(タイミング)がある。曲の速度が速い時は、かなり前の時点でめくる。遅い場合はギリギリまで待つ。しかし同じ音型が続いたり、長い音符が多い場合は、ピアニストがそれを把握しているなら、早めにめくってしまっても良いのである。詰まるところはピアニストの心理を読み取らなければならない。

 また、動作にも細心の注意を払う必要がある。目立たない服装で、特に袖の形には気を付けて、譜面に影がかからないように工夫する。本番だけ特別な照明が当たることもあるからだ。困るのは、紙が乾いていると指がすべってめくり損なうこと。そのために指を適度に湿らせて、しっかりと紙の端をつまんでめくるべきだ。間違っても2枚一緒にめくってはならない。しかし、カットして演奏する場合もある(一番面倒なのは、前のほうのページに戻って繰り返し、2回目だけカットして先に進むという演奏の時だ)。こうした決まり事を周知しておかなければならない。

 そして何より大切なのは、舞台上で自分の存在を消すことである。ピアニストによっては、隣に誰かが居て、しかもその人がかなりピアノが弾けると悟った途端、指が動かなくなる精神状態の人も、かなり居るからだ。B(ブルー・アイランド=青島)はその点、及第だったらしく、何度も頼まれていた。しかし逆に、心から安心して頼める譜めくりには、ついぞ出会ったことはなかった。今回もまた、危険を承知で一人で弾きに出る。



青島さん 写真提供:Gakken Pub199-248.jpg■プロフィル

 東京藝術大学講師。オペラや合唱など作曲した作品は200曲を超える。ピアニスト、指揮者としての活動も47年を迎え、コンサートやイベントもプロデュース。「題名のない音楽会」「世界一受けたい授業」などに出演している。


★お知らせ

 荻窪センターでは毎月1回、「オペラ実演の醍醐味(ロマン~近代編)」を開講中。今期は普通とはちょっと違ったオペラを取り上げます。声楽的な見方だけでなく、広い視野からその作品を俯瞰します。講師が招く特別ゲストもお楽しみに。オペラ講座は多いとは言え、これほどの名歌手を間近で聴けるのは、この講座しかありません。

 12月はアマールと夜の訪問者(メノッティ)とクリスマス・ソング、1月は あまんじゃくとうりこひめ(林光)と昔話2月の1回目は こうもり(ヨハン・シュトラウスⅡ世)と2回目はオペラ・アリア・名曲集及び名歌曲、古今東西の名オペラと、それにまつわる、同作曲家の歌曲を並べてご紹介します。一人の作者の違った面を知ることができる興味深い内容です。


次回の掲載は2月20日予定

バックナンバー

(情報誌「よみカル」2017秋号~2019冬号に掲載。2020年春からWEB掲載)

第1回「ガムラン奏者」

第2回「少女漫画のアシスタント」

第3回「香港の中華料理店の下働き」

第4回「オペラのコレペティートル」

第5回「プランクトン研究者」

第6回「お花を活ける人」

第7回「写譜屋」

第8回「古本屋の店主」

第9回「プールの監視員」

第10回「女性文化の担い手」

第11回「服飾デザイナー」

第12回「占い師」

第13回「司会者」