[連載エッセー]ブルー・アイランド氏がやりたかったこと(文と絵 青島広志)

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 針や糸をまともに持ったこともないのにおこがましいのだが、女性の服に興味がある。
元々幼稚園の時に「将来女性になりたい」と書いたのも、美しい服を纏(まと)えるからだった。
当時は男性の着る服の色は決まっていて、青や緑、灰色や茶色と、とにかく目立たないのが良しとされていた。
その点女性が着られる色はピンクや黄色、しかもその素材は柔らかで、ギリシャ神話に出てくる女神のように感じた。
そして同居していた叔母が買ってくる「それいゆ」のファッションのページを羨望の眼差しで眺めていたのである。


 そのうちに少女漫画を読むようになると、必ず出てくるスタイル画を真似して描くようになった。
新聞に挟まってくるチラシの裏は適度にザラついていて、粗悪な鉛筆でも容易に描けたのである。
何よりも高橋真琴の絵に魅せられた。
そしてこの漫画家が男性であると知った時の驚き!
男でも女性の美に貢献できるのだと嬉しくなった。
同じ頃、作風は違うが現代的なイラストを描いていた内藤ルネも男性だと知り、どうすればこのような仕事に就けるのかと調べたが、教えてくれる人は周囲には居なかった。


 初志は忘れて東京藝大の作曲科に入学した時、私淑していた林 光からオペラの仕事が回ってきた。
47年前のことである。そこで再び、今度は舞台の衣装と向き合うことになった。
貴婦人役の衣装はまるで少女漫画のお姫様のようで、用もないのに衣裳部屋に入り浸っていた。...時は過ぎ、自分で曲がりなりにもオペラを演出するようになった今、キャストの衣装のデザインを手掛けている。専門の衣装係を招く経済的な余裕はない。まずその役柄に適したコスチュームをスケッチ帳に描くのである。その時に果たしてこれが縫えるかどうかは考えない(面白いが現実には不可能と言われたことがある)。それを本人に見せ、なるべく近い衣装を持って来させる。良くしたもので、近頃では古着屋、アウトレット、インターネット販売などで奇抜なデザインの服は簡単に手に入る。しかも安い。その服を身に付けて衣装合わせを行うが、そこで更に靴下の色やアクセサリーなどを指示する。安い布を買って、それを適当に切り、留め付けることもある。古い和服や七五三の晴れ着などが面白い材料となる。


 つまり、直接縫うことはしないのだが、本人としてはデザイナーの心算(つもり)であり、舞台では十二分に映えると喜んでいるのだ。

青島さん 写真提供:Gakken Pub199-248.jpg

■プロフィル
 東京藝術大学講師。オペラや合唱など作曲した作品は200を超える。ピアニスト、指揮者としての活動も40年を超え、コンサートやイベントもプロデュース。「題名のない音楽会」「世界一受けたい授業」などに出演している。

★お知らせ
 横浜センターで3月28日(土)10時半から公開講座「『こうもり』をもっと楽しく」を開きます。ソプラノ横山美奈さんをゲストにウィーンの喜歌劇「こうもり」の魅力を、楽しいおしゃべりとともに一緒に歌います。5月9日(土)には「青島広志のオペラ420年を90分で」を開催します。オペラの歴史をたどりながらテノール小野勉さんのリードで「女心の歌」などを歌います。荻窪センターでは毎月1回、「オペラ実演奏の醍醐味(ロマン~近代編)」を開講中。ヴェルディとプッチーニの名作を解説・分析し、実際の演奏をお楽しみいただきます。3月は蝶々夫人(プッチーニ)を取り上げます。

次回の掲載は5月20日予定

バックナンバー

(情報誌「よみカル」2017秋号~2019冬号に掲載。2020年春からWEB掲載)

第1回「ガムラン奏者」

第2回「少女漫画のアシスタント」

第3回「香港の中華料理店の下働き」

第4回「オペラのコレペティートル」

第5回「プランクトン研究者」

第6回「お花を活ける人」

第7回「写譜屋」

第8回「古本屋の店主」

第9回「プールの監視員」

第10回「女性文化の担い手」